近年の地球温暖化によって、夏場のビニールハウスでの栽培環境は、これまで以上に難しくなっています。高温環境となる夏場でのビニールハウス内での栽培は、対策をしなければ作物だけでなく、働く人にとっても劣悪な環境ともなりかねません。

今回のコラムでは、ビニールハウスや農業資材を取り扱い、自社圃場での夏季栽培も行っているイノチオが経験をもとにお客さまへビニールハウス栽培の高温対策をご提案します。

農業を襲う地球温暖化

地球温暖化の原因の中でも、二酸化炭素がもっとも温暖化への影響があります。産業革命以降、化石燃料の使用が増え、大気中の二酸化炭素の濃度も増加しています。二酸化炭素、メタン、フロン類などの温室効果ガスが大量に排出され続け、大気中の濃度が高まり熱の吸収が増えた結果、気温が上昇しています。

IPCC第6次評価報告書(2021)では、世界平均気温は2011~2020で1.09℃上昇しています。また、陸地では海面付近よりも1.4~1.7倍の速度で気温が上昇し、北極圏では世界平均の約2倍の速度で気温が上昇していると言われています。

今後、温室効果ガス濃度がさらに上昇し続けると、気温はさらに上昇すると予測されています。報告書によると、今世紀末までに3.3~5.7℃上昇すると試算が出ています。

近年、話題となっているSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)でも取り上げられているように、企業や個人がこの地球規模の問題を解決するために取り組む必要があります。

そして、農業においても現状の環境を踏まえた上で、対策をして栽培に取り組んでいかなければなりません。

参照:全国地球温暖化防止活動推進センターHP

夏場のビニールハウス栽培の現状

地球温暖化より、高温期のハウス栽培にさまざまな悪影響が起きており、ビニールハウス栽培の暑さ対策が急務となっています。

特に夏場は、ビニールハウス内に空気がこもりやすく、日差しの影響を受けて気温が上昇します。高温状態は栽培する作物だけでなく、室内で働く人にも悪影響を及ぼします。

作物への影響

ビニールハウス内の温度が30℃を超える日や、平均気温25℃以上の日が続いた場合では、着果不良などの生理障害で収穫量が減少するなど、作物に障害が発生しやすくなります。
また、空気がこもることで病害虫が発生しやすい環境になる恐れがあるので注意しましょう。芽焼けや葉焼けが起きるほか、裂果・着色不良・黄変などの症状も発生しやすくなります。

生産者への影響

日差しが強く屋外最高気温が30℃を越える真夏日や、35℃以上となる猛暑日などは、ビニールハウス内の気温はさらに高く40℃を超えるような過酷な環境となってしまいます。そのような中で作業をしていると、水分補給が足りず熱中症や脱水症状を起こす恐れがある大変危険な環境です。

夏場のビニールハウス内は、作物にも生産者にも危険を及ぼす環境になりやすいので、十分な対策を施し、日々の業務に当たる必要があります。

ビニールハウス内が高温になる原因

ビニールハウス内が高温になる原因はいくつかありますが、代表的なものを紹介します。

太陽光の直射

ビニールハウスは、日差しの強い夏場には太陽光の直射を受けやすくなります。直射によるビニールハウス内の温度上昇のほか、日射がハウス内の鉄骨や土壌に吸収蓄熱されることで、ハウス内温度をさらに上昇させます。

空気の循環不足

ビニールハウスの内部で十分な空気循環が確保されていない場合、熱が蓄積されやすく、気温が上昇します。また、ビニールハウス内で生育している作物は、呼吸によって二酸化炭素を発生させます。この二酸化炭素がビニールハウス内にこもり、室内温度を上昇させる原因にもなります。

水分蒸発の欠如

水分蒸発は、涼しさをもたらすために非常に重要です。しかしビニールハウス内部は、外部よりも湿度が高く蒸発が起こりにくいため、気温が上昇しやすくなります。

外気温度の上昇

ビニールハウスは、外気温度が上昇すると熱伝導によって内部の気温も上昇するため、外気温が高温時には特に暑くなりやすいです。上記のような要因が組み合わさると、ビニールハウス内部の気温が急上昇する恐れがあります。

日射や熱をハウス外部で遮断するほか、遮光カーテンでの遮熱、換気装置を用いたハウス内空気の吐き出しや外気の取り込み、ミストなどの対策を行います。これらを効果的に組み合わせることが重要です。

ビニールハウスの高温対策

ヒートポンプ

ヒートポンプは、一般的なエアコンと同様に暖房・冷房・除湿機能を備えた機器になります。作物に最適な温度・湿度環境を作り出すことが容易であり 、安定した収穫量と品質向上に大きく貢献します。

ミストシステム

ミストシステムは、微細な霧状の水を高圧で噴射することで、空気中に噴霧された細かいミストが周囲の熱を奪い気化させます。これが気化熱による温度の低下です。そして作物の蒸散作用が活性化され、水分や栄養素をより効率的に吸収する効果もあります。夏場の高温多湿な環境下でも、作物のストレスを軽減し、成長を促進させます。

関連製品:ミストシステム

循環扇

循環扇は、ビニールハウス内の空気を吸い込み攪拌(かくはん)することで、空気の循環を促進します。これにより、空気中の湿度や温度、二酸化炭素の濃度を均一にすることができ、病気や害虫の発生を防ぐことも可能です。

ヒートポンプと併用することで、エアコンの冷房効率を向上させることもできます。冷たい空気が部屋全体に行き渡り、省エネにつながります。

関連製品:風来望

遮光カーテン

ビニールハウス内の温度上昇を抑制するために遮光カーテンが使用されます。目的に応じたフィルム素材を選択することにより、遮光・遮熱だけでなく、保温・保湿・日長調整の効果も期待できます。

高収量を目指す生産者の多くは、カーテンを上手く活用して光、温度、湿度をコントロールして、植物にとって最適なハウス内環境を整えています。カーテンの活用は、夏場の温度上昇の抑制だけでなく、冬場の暖房費にも繋がります。

関連製品:なつみスクリーンシリーズ

遮光剤・遮熱剤

遮光剤や遮熱剤といったビニールハウス用の遮光遮熱塗料は、ビニールハウスの表面に吹き付けることでハウス内の温度上昇を抑える効果が期待できます。温度上昇を抑えることで、葉焼け防止など、作物への高温対策のほか、ビニールハウス内で働く人の作業負担が軽減に効果があります。

遮光率も遮光剤を薄める割合で調整が可能です。持続期間や目的に合わせてラインナップされています。また、吹き付けた遮光剤は、専用の除去剤を使用することで簡単に剝離できます。

関連製品:遮光剤シリーズ

高温対策の施されたビニールハウスを選ぶ

これから農業参入や新規就農をされる方は、夏場の高温に適したビニールハウスを検討されることもおすすめします。

高軒高オランダ式ビニールハウス SANTAROOF

SANTAROOFは、トラス構造を用いた設計で、ビニールハウスの柱高を最大6.0mまでとした広い栽培空間を実現できるオランダ式高軒高のビニールハウスです。作物を上部に伸ばすことで高収量を目指せるハイワイヤー栽培にも対応。

トラス構造の採用や部材の強化によって高強度を実現。さらに、屋根部材の小型化によってビニールハウス全体に太陽光が行き届く高い採光性を確保し、作物の成長を促進させます。

広い栽培空間による高い換気効率が温度や湿度のムラを減らし、栽培を安定できることも特徴です。企業の農業参入や大型施設を中心にビニールハウスの価格や建設プラン、栽培開始後の事業プランまでトータルでご提案いたします。

低コスト耐候性ビニールハウスのNewモデル ドリームフィールド

ドリームフィールドは、幅広い栽培に選ばれてきた丸型ハウスD-1と屋根型ハウスのメリットを併せ持つ高性能ビニールハウスです。

ビニールハウスの間口・柱高・奥行きを標準化、一定基準の強度を保ちながら、部材数の削減を行うことでビニールハウスのコストダウンを実現。さらに、オランダ式高軒高のビニールハウスと同等水準の採光性を兼ね備えています。

特徴でもある開口部104cmの天窓は、真夏の高温を軽減させ、作物にも人にも快適な「涼しく」「明るい」優れた栽培環境で多収を実現します。

ご紹介したビニールハウス以外にも、栽培作物や栽培方法を踏まえてビニールハウスと内部設備をご提案させていただきます。

また、既存のビニールハウスでも理想環境で営農継続させるためのリフォームや、ビニールハウスの機能をさらに高めるリノベーション行うことで高温対策に適した仕様に改善できます。まずは、お気軽にご相談ください。

スマート農業でビニールハウス内環境を整える

ビニールハウス内の高温対策には、環境制御システムなどのスマート農業システムを活用することも一つの選択肢です。

環境制御システムとは、ハウス内の装置をコンピュータで管理する仕組みのことです。これまで人の手で行っていた作業を自動化するだけでなく、あらかじめ設定しておいた設定値に合わせて最適な環境となるように各種装置が駆動して制御を行います。

ビニールハウス内外の気温や天候の環境をもとに、換気窓、カーテン、暖房・冷房、加湿・除湿、CO2濃度などを複合的な要素を自動で制御します。

環境制御システム AERO BEAT(エアロビート)
使いやすく高性能!日本農業に最適な環境制御システム

施設園芸に携わり50年以上の歴史を持つイノチオアグリが、これまで培ってきた自社実績と、生産者の声を取り入れて開発した生産者目線の環境制御システムです。環境制御と合わせて、モニタリング機能も搭載。

エアロビート本体とコンピュータ1台で最大10区画または、ハウスを最大10棟まで管理することができるので、管理時間と導入コストの両方を削減できます。オリジナルの管理画面に設定することができ、はじめての方にも使いやすい仕様となっています。

イノチオアグリは新規就農をご支援します

イノチオアグリについて

イノチオアグリは施設園芸(農業ハウスやビニールハウス)に携わり、50年以上の知見がございます。50年以上に渡り、培ったノウハウを活かし、新規就農・農業参入を計画段階からご支援しております。お客さまのご要望や条件に基づいて農場を設計し、栽培方法や作業計画を一緒に考え、事業収支の試算までの事業計画の策定をお手伝いします。

更に、圃場研修や専門指導員によるサポートで、事業開始の準備期間から栽培開始後の運営管理や労務管理に至るまで、農業ビジネスの最前線で培ったノウハウを活かしてお客さまの農場運営をトータルサポートします。

イノチオアグリで行う新規就農支援とは?

新規就農は一次産業ですが、会社を興すことと何ら変わりません。新規就農後の農業経営を行うための経営資源である資金確保や経営、営農技術の習得からビニールハウス・機械などの経営基盤構築が必要になります。新規就農には、十分な事前準備が不可欠です。

弊社は新規就農までの課題である、就農計画の提案や新規就農で活用できる融資制度のご紹介、就農までに必要な事業計画書作成支援やビニールハウスの図面、概算見積をトータルで支援いたします。ご要望ございましたら、下記お問い合わせからお申込みください。